子供の頃、貧しさゆえにザリガニを食べていた有名人といえば最近は麻生久美子さんを思い出す人が多いかもしれない。でも忘れちゃいけないのがボクシングの元ライト級の世界ランカー、坂本博之氏(以下敬称略)。活躍したのは90年代で、平成のKOキングと呼ばれたが、妙に昭和の香りの漂うボクサーだった。子供時代には家庭の貧窮から知人宅に預けられたが、まともに食事も与えられず、ザリガニやトカゲを食べて飢えをしのいだこともあるそうだ。その後、養護施設に預けられてようやくまともに食事が出来るようになった。ボクシングとの出会いはそこで観たTVだという。
無尽蔵のスタミナと驚異的なタフネスで、打たれてもひるむことなく、魂ごとぶつけるような強烈なフックを振り回しながら前進し続けるそのスタイルは、観る者に強い印象を与えた。大振りのフックは迫力満点で、空振りでも会場をわかせた。4度世界に挑戦し、いずれもタイトルには届かなかったが、特に3度目は対戦相手をKO寸前に追い込みながら、まぶたをカットしてストップされたことで惜しまれる試合。
4度目の挑戦は激戦として知られる畑山戦。畑山の勝利にケチをつける気はないが、当時絶頂期の畑山に対して、長年に渡る激戦を経た坂本に既に往年の勢いはなく、ファンとしては歯痒い思いをしたものだ。坂本は出身施設の子供たちの応援を受けてリングに上ったが、この試合では序盤から畠山のスピードのあるパンチを浴び続けた。それでも決して諦めることなく前進し続けたが、10ラウンドついに力尽きるようにリングに沈んでいった。
その生い立ちや、惜しくも世界タイトルに届かなかったことから悲運のボクサーとして語られることも多いが、坂本は施設の子供たちに世界タイトルを奪取してみせる以上のものを教えたように思う。
畑山戦の後も坂本はヘルニアの手術などを乗り越え、満身創痍になりながらも現役を続けたが、昨年ついに引退。
現在はトレーナーをしながら現役時代に設立した「こころの青空基金」の活動として、児童養護施設の子供の支援を続けている。資金面の援助だけでなく、養護施設を回って子供達にボクシングセッションを通じた心のケアを行ったり、講演をしたりと幅広く活躍中。NHKの教育福祉ネットワークで、その坂本の活動が紹介された。再放送は6月9日。


